新世紀エヴァンゲリオン-if-

 外伝 八 スーパーロボット 初号機X


 「ミサト、シンジ君。いきなりで悪いんだけど、エヴァの新装備の開発に協力して
 欲しいんだけど、いいかしら?」

 「いきなりね、リツコ」

 「エヴァの新装備、ですか?」

 「ええ。使徒は日増しに強力になってきてるから、それに対抗するためにも、エヴァ
 の装備も強力なものにしていく必要があるのよ」

 「どんな装備なんですか?」

 「そうねえ……。シンジ君、浅間山に現れた使徒の事覚えてる?」

 「はい。確か火山の中で泳いでいたやつですよね。アスカが冷却液をかけて熱膨張で
 倒したやつ」

 「ええそうよ。良く覚えていたわね。あの使徒はプログナイフを全く受け付けない
 ほど硬い皮膚だったけど、冷却液をかける事による急激な温度変化で皮膚がボロボロ
 になったから、プログナイフが刺さり、倒すことができたのよ。つまり、いかに使徒
 が強力な力を持っていても、自然界の法則には従うって事よ」

 「つまりリツコ、その新装備っていうのは、温度変化を利用した武器って事なの?」

 「ええそうよ。さすがミサトね、いいカンしてるわ。この装備は、技術的にも十分
 製造可能だし、データはすでに打ち込んであるから、このシミュレーションの結果が
 良好なら、すぐにでも製造に入りたいのよ。だからシンジ君、協力してね」

 「ええ。僕は構いませんよ」

 「で、リツコ。具体的にはどんな武器なの?」

 「それは見てのお楽しみよ。ふふふふふ…………」

 『……まずい。リツコがこんな笑い方する時にはロクな事がないのよ。何も起き
 なきゃいいけど……』


 そして数分後、シンジはプラグスーツに着替え、エントリープラグに入っていた。
 その中には、本物そっくりの第三新東京市の仮想空間が映し出されていた。

 そして、目の前には仮想の敵、サキエルが立っていた。

 「いいかしらシンジ君? それじゃあ説明するわよ」

 「はい」

 「これまでエヴァにプログナイフ以外の固定装備が無かったのは、自重の増加を防ぐ
 ためだったんだけど、この新装備はエヴァの構造上、胸部装甲板の下あたりに内蔵
 する事になるの。だから、少し重くなって動きが鈍くなるけど、それを補って有り
 余るほどの威力があるから我慢してね。

 それと、今までエヴァには思考モード手動モードがあったけど、誤作動を防ぐ
 ために、新たに音声入力モードを作ったから」

 音声入力モード!?」×2

 「ちょっとリツコ、何よその音声入力モードってのは?」

 「だから言ったじゃない。この装備は威力が大きいのよ。だから、間違っても誤作動
 しないように、音声入力によって初めて使用可能になるの。

 あ、それとシンジ君、この装備は正面の敵にしか効かないの。だから、使うとき
 には敵を正面に入れてね」

 「はい、分かりました。それで、僕は何と言えばいいんですか?

 「今、そっちにデータを送るわ」

 そう言ってリツコは手元のボタンを押した。すると、エントリープラグ内に武器の
 名前が表示された。

 「いいシンジ君? アクセントはここと、ここと、ここに付けてね」

 リツコがモニターを見ながらボタンを押すと、武器の名前にアクセントが付けられて
 いく。

 「それじゃあ、シミュレート、スタート!

 「はい、じゃあ行きます。え~と……。

 ダブ○ ブ○ザァァァァァァド!!!

 シンジがそう叫ぶと、初号機の胸部装甲板が左右に開き、中から一対の巨大なファン
 が現れた。そしてそれが回転し始め、やがて吹雪を伴った猛烈な冷気がサキ
 エルを襲った。サキエルの表面はたちまち白く霜が付き、コアの光も鈍くなってきて
 いる。

 「よしっ! ここまでは完璧ね」

 リツコは得意げだったが、ミサトは目が点になっていた。

 サキエルの動きが止まったので、シンジはとどめを刺そうと、プラグナイフを取り
 出した。

 「あ、待ってシンジ君!」

 「え? とどめを刺すんじゃないんですか?」

 「もちろん、とどめは刺すわよ。でも、とどめ専用の武器も用意してあるのよ。
 ちなみに、武器の名前はこれ。アクセントはここと、ここと、ここね。もちろん、
 音声入力だから」

 「はい。これを叫べばいいんですね」

 シンジは、目の前に新たに映し出された武器の名を覚え、アクセントの位置を確認
 した。

 「じゃあシンジ君、やってみて」

 「はい。ぶわぁくねつぅ

 プログレッシブゥ

 フィンガァァァッ!!!

 シンジがそう叫ぶと、初号機の右手がプログナイフのように振動し始めた。そして、
 手のひらの部分が高熱を発し始める。

 「今よシンジ君! 使徒のコアを握りつぶして!」

 リツコの指示を受け、シンジはサキエルに向かって走った。そして、冷やされ白く
 なっているコアを握る。急激な温度変化と振動により、コアは粉々に砕け散っていた。

 「やったわ! やっぱり私って天才ね。どうミサト、大したもんでしょ?」

 しかし、ミサトは開いた口が塞がらなかった。

 「ちょっと、どうしたのよミサト?」

 「え? あ、ああ、そうね。確かに大した威力だけど、こんなの本当に造れるの?」

 「もちろんよ。私の理論は完璧なんだから

 「本当に大丈夫なの? どこかのメガネ少年も同じ事言って、失敗ばかりしてた
 じゃないの」

 「あの子は趣味でやってただけじゃない。その点、私は本職なのよ。この差は
 大きいわよ。私を信じなさい」

 『リツコだって趣味でやってるようなもんじゃないの。それも本職な分だけ始末が
 悪いときてる』

 「ところでリツコ、作戦課として聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

 「何? 問題点があるなら早めに言っといてね。できる限り対処するから」

 「まず……最初の冷凍攻撃なんだけど……」

 「ダブ○ブ○ザードよ」

 「そ、そう、そのダブ○ブ○ザードはまぁ問題ないんだけど、その後のコアを握り
 潰したやつ」

 「ぶわくねつプログレッシブフィンガーよ」

 「そうそれ。何でアレわざわざ接近兵器なの? 使徒の動きを止めてるんだから、
 ポジトロンライフルかなんかで狙撃した方が安全じゃないの?」

 「分かってないわね、ミサト。こういう物のとどめは接近攻撃と大昔から
 決まってるのよ」

 「は……はは……ははは……」 ヒクヒク

 『う~リツコが遠くに行ってしまってるぅ~~~』

 「ま、確かにミサトの言うように、飛び道具も考えなかったわけじゃないのよ」

 「じゃあ、何でやめたのよ?」

 「技術的にね、色々と難しいのよ」

 「で、ちなみにどんなやつなの? 参考までに聞かせてよ」

 「いいわよ。まず、装甲をスライドさせてコアを露呈させるの」

 「コアを? 何で?」

 「だって、ちょうどいい位置にあるじゃない」

 「ほえ? ? ?」

 「そして、その後両手で、ぶわくねつプログレッシブフィンガーを出すの。そして、
 コアの前に手を持ってきて、コアから直接エネルギーを取り出し、両手の間で凝縮
 し、一気に使徒に向けて撃ち出すの。名付けて……」

 「あ~もういいわ。これ以上聞くとヤバくなりそうだから……」

 「そう……。せっかくいい名前考えたのに……」

 リツコは思いっきり残念そうだった。

 「それと、技術的な問題もあるけど、今のシンジ君のレベルじゃまだ扱えないと
 思ってね。いっその事、ギア○高地にでも修行に行ってもらおうかしら」

 「なんでギア○高地なわけ?」

 「あらミサト、知らないの? 修行と言えばギア○高地と昔から決まってる
 のよ」

 「…………ま、とにかく、作戦課としてパイロットをそんな遠くに連れて行く事
 は認められないわね。その間に使徒が来たらどうするのよ?」

 「大丈夫よ。修行中に使徒は来ないわ」

 「何でそう言い切れるわけ?」

 「ミサト、この世を支配している力は何だと思う?」

 「え? さ、さあ……?」

 「それは、『お約束』よ。いくら使徒といえども、この力には逆らえないわ。
 だから修行中には絶対使徒は来ない。もし来たとしても、それは修行が終わった
 直後ね」

 『あ~、リツコがますます遠くに行ってしまっている』

 「そのうち、レイやアスカにも覚えさせて、合体攻撃なんてのもいいわね。
 ……あ、でも声のイメージからして、鈴原君の方がいいかしら?」

 「もー好きにして」

 「あ、そうそうシンジ君。どうかしら、この装備の使い心地は?」

 「ええ。何だかスッキリしますね」

 「でしょ!」

 リツコはとても嬉しそうに微笑んだ。

 「……でも」

 「でも? 何か不満点でもあるの?」

 「いえ。不満ってわけじゃないんですけど、とどめを刺す時とか、とどめを刺した
 後に、何かこう、掛け声みたいなのが欲しいかなぁ~と思って」

 「さすがシンジ君、男の子ね。実は私もいくつか考えてるのがあるの。後で相談
 しましょう」

 「はい! そうしましょう」

 『ああ……シンジ君まであっちの世界にいっちゃってる……』

 「でもリツコ、こんなの本当に正式採用されるの?」

 「大丈夫よミサト、さっきの威力見たでしょ? 実用性が認められれば、きっと
 碇司令も許可してくれるわよ」

 「そうかしらね~。疑問だわ」

 「大丈夫だって。ミサトは心配症ね」

 しかし、気楽なリツコの思いとは裏腹に、この装備を正式に採用するかどうかの会議
 は揉めていた。ゲンドウはかなり気に入っていたようだったが、冬月を始めとする
 他のメンバーが、各方面に色々と問題があるとして強く反対した。

 『ダブルライダーキック』がいいんだから、これだっていいんじゃないかと
 リツコは訴えていたが、結局は不採用となった。

 しかし、こんな事でくじけるリツコではなかった。日夜、どこかで見たような装備を
 エヴァに組み込もうと、怪しい研究を続けていた。

 その情熱はすさまじく、いつの日かエヴァがピンチに陥った時、

 『こんな事もあろうかと、造っておいたものがあるのよ』

 と言いつつ取り出した装備により、一撃で使徒が倒される。という日が来るのも
 そう遠い日の事ではないだろう。

 なお、よっぽどこのシミュレーションが気に入ったのか、シンジはこの後、使徒を
 倒すたびに、

 「○年早いんだよっ!」 とか、

 「そのまま○ねっ!」 とか、

 「○K!」 (伏せ字になってない) とか

 言うようになったそうである……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 八

 スーパーロボット 初号機X <完>


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 今回、作者暴走しました。一度こういうのやってみたかったんです~。


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