新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 伍 クリスマス決戦!  レイvsアスカ

 - Cパート -


 「良かった。葛城三佐が来てくれる。これで碇君も良くなるんだ……」

 そう思い、シンジを見る。シンジの寝顔がとてもいとおしく思えてくる。

 「ごめんなさい、碇君。私のためにこんな事になって……。でも、嬉しかった。
 ありがとう、碇君」

 レイは、そうつぶやくと、シンジの顔にゆっくりと近づいていった……。


 ……その頃アスカは、この世の地獄を味わっていた。

 きゃぁぁぁ~~~!! ミサト、信号赤よ赤!!
 きゃぁぁぁぁ~~」

 「黙ってなさい!! 舌かむわよ!」

 ミサトの運転は、荒っぽいなんてものではなかった。制限速度の二、三倍のスピード
 を出し、信号は全て無視、更に、開いているようなら反対車線を走ったりもした。

 「で、でも後ろの方にパトカーが……」

 「放っときゃいいのよ! こっちはシンジ君の命が懸かってんのよ。それに、エヴァ
 のパイロットの保護とか何とか理由つければいいのよ。ネルフは非合法組織なんだ
 から、大抵の事は揉み消せるわ」

 そう言いながら、圧倒的なドライビングテクニックでパトカーをぶっちぎった。

 しばらくして、爆走ミサトカーは、レイのマンションに到着した。

 「ほらアスカ、何やってんの。行くわよ」

 「こ、腰が抜けて立てないのよ」

 「情けないわね~たったあれだけの事で……。先に行くわよ」

 「あ、待ってよ!」

 アスカは、何とかミサトについていった。

 「レイ、私よ。開けて」

 「あ、葛城三佐。開いてますから入って下さい」

 ミサトとアスカは部屋の中に入り、ベッドで眠っているシンジを見て、ようやく
 一息つく事ができた。

 「ちょっとファースト、シンジはカゼひいてたのよ。それなのにあんたの看病を
 してたからこんな事になったのよ。どうする気?」

 「ごめんなさい」

 「アスカ、やめなさい。レイは悪くないわ。レイだって病気なのに、シンジ君に
 ベッドを開け渡しているのよ。レイの気持ちも考えなさい」

 「ふん!」

 「シンジ君、シンジ君」

 ミサトは、ゆっくりとシンジを揺すった。すると、シンジは目を覚まし、ぼんやりと
 辺りを見回した。

 「ん……んん……あれ? ミサトさん……アスカも。どうしてここに? ……あれ?
 僕は一体どうして……」

 「シンジ君、覚えてないの?」

 「……いえ。綾波の部屋に来て、雑炊作って、リンゴむいて……それから急に頭が
 痛くなってきて目まいがして……それから覚えてないんです」

 「きっとカゼが治ってないのに無理したからよ。でも、大丈夫そうで安心したわ」

 「ごめんなさい、碇君」

 「え? 綾波が謝る事ないよ。たまたま僕の体調が悪かっただけだよ。だから綾波は
 何も気にしなくていいよ」

 「でも、私のせいでこんな事になってしまって、私……」

 「本当に僕は何も気にしてないから。だから、綾波もそんなに自分を責めないでよ」

 「ありがとう、碇君」

 「うん」

 そう言って、二人は微笑みあっていた。

 『うそ、ファーストが笑ってる。あのファーストが笑うなんて……。おまけに話し
 方に感情がこもってる……』

 『……シンジは驚いてない。まさかシンジ、ファーストが笑う所を見た事があるっ
 ていうの? まさかこの二人、何かあったんじゃ……。いや、そんな事あるはず
 ないわ、絶対。
 ファースト、シンジがあんたを看病したのは、シンジは優しいからなのよ。自分
 だけが特別扱いされてるなんて思うんじゃないわよ。シンジは優しいから、病人の
 あんたを放っておけなかっただけなんだからね。勘違いするんじゃないわよ』

 アスカは、そんな事を思いながら、レイを見つめていた。一方、ミサトは、ベッド
 の横に置かれていたものをふと発見した。

 「あら、かわいいレースね。レイもクリスマスを祝ったりするの?」

 「いえ、それは碇君が買ってきてくれたんです」

 「ぬぅわんですぅってぇ~!! シンジ、どういう事よ!!」

 「え? どういう事って言われても……。綾波の部屋、何も無かったから、飾りに
 でもなるかなって思って、買い物のついでに買ってきたんだよ」

 「つまり、シンちゃんからレイへのクリスマスプレゼントって訳ね」

 「そんな大げさなものじゃありませんよ。本当に、ただの飾りとして買ってきただけ
 ですから」

 「照れなくてもいいじゃない。女の子はね、プレゼントを貰うと、嬉しいものなの
 よ」

 「そうなんですか?」

 「そうよ。それにしても、シンちゃんもなかなかやるわね~。見直したわよ」

 「え? 何がですか?」

 「一人暮らしの女の子の部屋に見舞いに来て、料理作った上にずっと看病してる
 なんて、なかなかできる事じゃないわよ」

 「でも、僕は熱出して倒れてしまって……結局綾波に迷惑かけてしまったんだ」

 「そんな事ない。私は迷惑だなんて思ってない。本当に私は嬉しかったもの」

 「綾波……」

 「碇君……」

 「えーーーいっ!! 見つめ合ってんじゃないわよ!
 シンジ、あんたファーストのカゼが移ったんじゃないの? カゼが移るような事して
 たんじゃないでしょうね!」

 「え? 何の事、アスカ?」

 シンジには、アスカが何を言ってるのか分からなかったが、どうやらミサトには
 分かったようだった。

 『なるほど。そういう事ね、アスカ』

 「ところでシンちゃん。いつから口紅なんかするようになったの?」

 「え? 何言ってるんですかミサトさん。僕は口紅なんか付けませんよ」

 「ちっ! かからなかったか。良かったわね、アスカ。アスカが心配しているような
 事は無かったみたいよ」

 「? 何の事ですか、ミサトさん」

 「つまり、アスカはシンちゃんとレイがキスしたんじゃないかって疑ってるのよ」

 「ちょっとミサト! 何勝手な事言ってんのよ!」

 「そ、そうですよ。僕と綾波はそんな事してませんよ。ねぇ、綾波」

 しかし、同意を求めて振り返ると、レイは真っ赤な顔でうつむいていた。この状況で
 赤くなるというのは、何かありましたと言ってるようなものである。

 「あ、あの……綾波?」

 「ちょっとファースト、あんたまさか、本当に何かあったの?」

 「私は……その……碇君が倒れたから薬飲んでもらおうと思って……。でも碇君、
 気を失っていたから……その……だから……」

 「だから何なのよ!? はっきり言いなさいよ、じれったいわね!」

 「あ、分かった。レイはシンちゃんに口移しで薬飲ませたんでしょ」

 「は……はい」

 レイは赤くなりながらも、小さくうなずいた。

 「何てことすんのよあんたは! 信じらんない!」

 「だ、だって……碇君の事が心配で……」

 「まぁまぁアスカ、レイはシンちゃんの事を心配してやった事なんだから、いい
 じゃない」

 「だからって、他にやり方があったでしょうに! まったくもう!」

 「ごめんなさい、碇君。勝手な事して……」

 「え? そ、そんな事ないよ。綾波は僕のためにしてくれたんだから……。
 その……嬉しいな」

 「本当に?」

 「うん、本当だよ。ありがとう、綾波」

 「良かった」

 「ちょっとファースト、それだけでしょうね? 他には何もないでしょうね?」

 「な……何も……ないわ」

 「本当に?」

 「ほ……本当に……何もないわ」

 「怪しいわね。いつも無表情な人形みたいなあんたが、こんなに慌てるなんて」

 アスカにそう言われると、目をそらして黙り込んでしまった。

 「こら、何目そらしてんのよ。何とか言いなさいよ」

 「…………」

 『うーん。レイのこの様子からすると、他にも何かあったのかしら? ……でも、
 口移しで薬を飲ませるなんて、本当にシンちゃんの事が心配だったのね。……それ
 にしても』

 「レイ、あんた昨日よりもキレイになったんじゃない?」

 「え? そうですか?」

 「ええ、絶対そうよ。やっぱり女は恋をすると綺麗になるものなのね」

 「え?」

 『恋? この気持ちが恋というものなの? 私、碇君に恋してるの? 私が?』

 そう思いシンジの方を見ると、目が合ってしまい、二人仲良く真っ赤になった。

 「うふふふ。カワイイわね~二人とも」

 そんな二人を見たアスカは、『このままではまずい』と女の直感が告げた。そして
 一刻も早くシンジを連れ帰る事にした。

 「ほらシンジ、帰るわよ! あんたがいつまでも寝てたら、ファーストが寝らんない
 でしょ!」

 「あ、ご、ごめん。綾波も病気なのに僕がベッド使ったりして」

 「私はいい。それで碇君が良くなるなら」

 「ありがとう。でも、やっぱりそうはいかないよ」

 そう言ってベッドから降りたシンジを、アスカが引っ張って行こうとする。

 「ちょっと待ってよアスカ! このまま綾波を放っておくわけにはいかないよ」

 「確かに、病気のレイを一人にはできないわね。いいわレイ、今日はうちに泊まり
 なさい。私はリビングで寝るから、私の部屋を使うといいわ」

 「え、でも……」

 「そうしなよ、綾波」

 「そうですか。それじゃあ、そうさせてもらいます。……それで、あの、葛城さん
 に一つお願いがあるんですけど……」

 「ん? な~に、レイ?」

 『まさか、シンちゃんと一緒の部屋で寝たいなんて言うんじゃないでしょうね』

 『まさか、シンジの部屋で寝たいなんて言うんじゃないでしょうね』

 「碇君の作った雑炊、持って行ってもいいですか? 残したくないから」

 「え? あ、ああ。いいわよ、別に。……それにしてもレイ、アツアツね」

 「え? もう冷めてると思いますけど」

 「あ……いや、そういう意味じゃないんだけど……」

 『う~~ん。この子は天然か』

 『な~にが手作りの雑炊よ! 私なんか毎日シンジの手料理を食べてるんだからね!
 あ~腹が立つ!』

 そう思い、レイの残していたリンゴをヤケ食いするアスカだった。

 「じゃあレイ、お泊まりセット用意して」

 「お泊まりセット?」

 「そう。下着の替えとかパジャマとか」

 「下着はさっき替えたからいいです。パジャマも持ってませんから」

 「ちょっとシンジ!! 下着をさっき替えたってどういう事よ! まさか
 あんたが手伝ったんじゃないでしょうね!!」

 「何バカな事言ってんだよアスカは! 僕はその時はキッチンで片付
 けしてたんだよ!」

 「……覗いてないでしょうね?」

 「当たり前じゃないか!」

 「あのねレイ、シンジ君なら大丈夫と思ったんだろうけど、そういう事は、男の
 いない所でするものなのよ」

 「そうなんですか? 命令ならそうします」

 「じゃ、命令」

 「はい、わかりました」

 「ま、制服で寝させる訳にもいかないから、私の服貸してあげるわ。それじゃあ、
 みんな、帰るわよ」

 そして四人は車へと向かった。さすがにレイに気づかってか、鍋はシンジが持って
 いた。

 車に戻ると、警官が待ち構えていた。

 「ミサトさん、何かやったんですか?」

 「ん~~~。ちょっと、スピード違反やったかな」

 「あれは『ちょっと』なんて生易しいもんじゃないわよ!」

 「……ミサトさん、またやったんですか……」

 「だ~いじょうぶよ! 気にしない、気にしない。それじゃ、ちょっとお話聞いて
 くるから、あんた達は車に乗っててちょうだい」

 そう言って、ミサトはパトカーの中へ入っていった。

 シンジ達は、誰がどこに座るかで揉めたが、シンジが助手席、レイとアスカが後ろ
 という事になった。

 さすがにネルフの力は大きいので、ミサトは『厳重注意』だけで開放された。

 「お待たせー」

 「帰りはくれぐれも安全運転で頼むわよ」

 「分かってるって。病人が二人も乗ってるのに、無茶しないわよ」

 意外にも(?) その言葉通りに、ミサトは安全運転でマンションまで帰ってきた。

 その時、シンジ達は自分が空腹な事に気付いた。幸い、シンジの作った雑炊がまだ
 二人分ほど残っていたので、温めなおし、シンジとレイが食べていた。アスカも
 それを欲しそうにしていたが、さすがに病人の食べ物を取る訳にもいかず、それを
 眺めるだけだった。

 シンジとレイは、食事が終わるとさっさと寝てしまったので、残された二人は、
 予告通りクリスマスケーキを夕食代わりとしていた。

 ミサトにとって、このような食事は慣れているし、チョコレートの家を食べられた
 ので、ごきげんでビールを飲んでいるが、アスカはとことん虚しかった。

 『あ~ん。なんだってクリスマスイブの晩に、こんなヨッパライ女と二人っきりで
 ケーキなんかを食べなきゃいけないのよ~。おまけにチョコの家は食べられるし、
 もう最低! のイブね』

 そんな事を考えながらも、空腹には勝てず、ヤケ食いも入っていたため、一人で
 随分と食べていた。その後、風呂から出たアスカは随分と薄着でリビングでゴロゴロ
 としていた。

 「アスカ、そんな格好でいるとカゼひくわよ」

 「平気よ。私はあの二人ほどヤワじゃないから」

 「それとね、私、もう寝たいんだけど」

 「はいはい。自分の部屋に戻れって事でしょ」

 「そういう事。じゃ、おやすみ、アスカ」

 アスカは自分の部屋に戻ってからも、夜遅くまでゴロゴロしていた。


 そして次の日、シンジとレイのカゼは完全に治っていた。そして、アスカは計画
 通り、カゼをひく事に成功していた。さすがに、口移しで薬を飲ませてもらう訳
 にはいかなかったが、日曜日という事もあり、病人の特権を利用して一日中シンジ
 に甘えていた。

 しかし、この一見完璧に見えたアスカの作戦にも、唯一にして最大の問題点があっ
 た。それは、アスカの作戦を見破ったレイが、一日中居すわった事であった。

 アスカは、自分のベッドで考え事をしていた。

 『く~~~これでファーストさえいなければ完璧だったのに~~~。でもまあ、
 たまにはカゼをひいてみるのもいいわね。シンジは優しくしてくれるし、のんびり
 できるし、まぁまぁのクリスマスね。

 あ、そういえばシンジのやつ、ファーストなんかにプレゼントなんかして……私
 には何もくれた事が無いっていうのに……。当然、私にも請求する権利があるって
 事よね。何貰おうかな……。でも、気の利かないシンジの事だから、何も考えて
 ないんだろうな、きっと。

 よし、悩まなくてもいいように、私が決めておこう。何がいいかなぁ~~~。

 あ、そうだ! 私のためだけにクリスマスソングをチェロで弾いてもらう、なんて
 のはどうかな。二人っきりになれるし、いいムードにもなれそうだし……これで
 決まりね。

 となると、私からも何かプレゼントした方がいいのかな。でも、今から準備する
 となると……しようがない、加持さんにあげようと思ってた手編みのマフラーを
 シンジにあげるとするか。

 プレゼントはこれでいいとして……問題はどうやってもう一度シンジにカゼをひか
 せるかね。私だって看病の一つや二つ、完璧にできるって事をシンジに見せつけ
 ておかなくちゃ。ファーストより、この私の方が優れてるって事を証明してあげる
 わ』

 そして、アスカは妄想モードに突入する。


 「ほら、シンジ、おかゆができたわよ」

 「ありがとう、アスカ、いただくよ」

 「あっ、私が冷ましてあげる」 フーフー(おかゆに息を吹きかける音)

 「シンジ、口開けて。食べさせて、あ・げ・る」

 「う、うん」

 ぱく

 「どう? おいしい?」

 「うん! とってもおいしいよ!」

 「そりゃそうよ。何たって、この私がシンジの為に作ったんだから」

 「アスカは本当に優しいね。料理も美味しいし、気が利くし……。アスカ、僕は
 前からアスカの事が……」

 「シンジ……」


 『な~~~んて事になったりして。きゃ~きゃ~、何考えてんのよ
 私ってばもう』

 じぃ~~~~~~

 その時、アスカは背後からの視線を感じ、ふと現実に戻ると、そこにはアスカを
 見つめるレイがいた。

 「ちょっとファースト、あんたいつからそこにいたのよ?」

 「だいぶ前から」

 「何しに来たのよ?」

 「葛城さんに、『アスカの様子が心配だから、見てきて欲しいって』って言われた
 の。ノックしても返事が無いから寝てるのかと思って、起こさないように、そっと
 見にきたの」

 「起きてるのが分かったんなら、声くらい掛けなさいよ」

 「だって、アスカ、とても楽しそうにしてたから、邪魔するのも悪いと思って」

 「べ、別に楽しそうになんかしてないわよ……。と、ところで、シンジは何してん
 の?」

 「気になる?」

 「べ、別に気になんかならないけど……何してるのかな? って思ったのよ」

 (それを『気にしている』と言うんじゃないか、普通)

 「碇君なら、アスカの強い希望で、雑炊を作ってる」

 「悪いわね、ファースト。続けて雑炊なんて、もう飽きたでしょ?」

 「私は平気。碇君の料理、美味しいもの」

 『ムッ!』

 「……ところであんた、いつまでここにいるの? 私のカゼが移っても知らない
 わよ」

 「私は平気だから、気にしないで」

 「まさか、あんたもカゼひいて、シンジに看病してもらおうなんて思ってんじゃ
 ないんでしょうね?」

 「も?」

 「な、何でもないわよ!」

 「私はそんな事しない。碇君に迷惑かけたくないもの」

 「じゃあ何? この私が、シンジに迷惑かけてるって言うの?」

 「そんな事は言ってない。それにアスカ、わざとカゼひいたんじゃないんでしょ?」

 「あ、当ったり前じゃない! わざとカゼひくバカなんかいる訳ないでしょ!」

 「なら、いいじゃない」

 『う~。相変わらず、この女はやりにくいわね。でも、部屋から追い出すとシンジの
 所に行くだろうし……。う~ん……どうしてくれよう』

 ……そんな二人を、ふすまの隙間からミサトが覗いていた。

 『やってるやってる。やっぱりあの二人をぶつけてみるのは面白いわね。

 ……しかし、アスカにこんな可愛い所があったなんて意外ね。シンちゃんに構って
 欲しくて、わざとカゼひくなんて……。でも、まだまだね。こんな、すぐバレる
 作戦に引っ掛かるのは、シンちゃんくらいのものよ。レイだって気付いてるよう
 だし。

 もう一つ意外な事といえば、レイの行動ね。アスカの作戦を見破って、一日中シン
 ちゃんのそばにいるなんて……。これが恋する乙女のパワーってやつかしら。レイ
 は好きな人ができると変わるタイプね、きっと。

 でもシンちゃんも大変ね。あの二人は水と油ほど全く違う性格してるから、苦労
 するわね、きっと。ま、見てる分には、これ程面白い事はないけど』

 ミサトがそんな事を思っている頃、シンジは四人分の雑炊を作っていた。今日は
 材料がたっぷりあるし、ミサトも雑炊でいいと言っていたので、随分と手の込んだ
 ものになっていた。

 『アスカ、大丈夫かな? 僕のカゼが移ったのかな? ……だとすると、悪い事
 したな……。それにしても、綾波は優しいな。アスカの事が心配で、残ってくれ
 てるなんて』

 二人の女心に全く気付いていないシンジだった。


 しばらくして、料理ができたので、アスカの部屋まで持って行く事にした。

 「あれ? ミサトさん、そんな所で何やってんですか?」

 「え? ああ、ちょっち、アスカの事が気になってね」

 「だったら、中に入ればいいじゃないですか。アスカ、入るよ」

 「え、シンジ? ええ、いいわよ」

 中からの返事を聞き、シンジは中に入っていった。そして、後ろからミサトも入って
 きた。

 「あれ? 綾波、ここにいたんだ?」

 「ええ。アスカの様子を見てたの」

 「へえ、優しいね、綾波」

 そう言われて、レイは随分と喜んでいた。当然、アスカは面白くなかったが。

 「アスカ、食べに来られる? そこまで持って行こうか?」

 「え? そ、そうね」

 『シンジに持って来てもらう - 二人っきり - シンジに食べさせてもらう
 - いい雰囲気。 これよ! これで決まりだわ!』

 しかし、アスカより先にミサトが喋った。

 「良かったわねアスカ、シンちゃんにフーフーして食べさせてもらったら」

 そう言って、ニヤニヤ笑う。

 「何で私がそんな子供みたいな事しなくちゃいけないのよ! ちゃんと食べに行ける
 わよ!」

 『ミサトのやつ、昨日子供って言ったの、根に持ってるわね』

 『そう簡単にラブラブにはさせないわよ。昨日の事もあるしね』

 「じゃあ、みんなで一緒に食べましょう。僕、お茶用意して来ます」

 「あ、待って! シンジ!」

 「ん? 何? アスカ」

 「はい、これ」

 そう言って、アスカの好きな色、赤色の紙にラッピングされ、リボンの掛かった物を
 シンジに渡す。

 「え? あの、これ、まさか」

 「そ。私から、シンジへのクリスマスプレゼントよ」

 「で、でも、何で僕に?」

 「シ、シンジにはいつも弁当とか世話になってるから、そのお礼よ。それ以外の
 何でもないんだから、勘違いしないでよ!」

 『あ~ん、私のバカ。こんな事言うつもりじゃないのにぃ~』

 「ありがとう、アスカ! 嬉しいよ!」

 「シンちゃん、そんなに喜んじゃって。……ひょっとして、女の子からプレゼント
 貰うの、初めてとか?」

 「そ、そんな事ないですよ。僕だって貰った事ぐらいありますよ」

 「またまた~。そんなにミエはらなくてもいいじゃない。涙流すほど感激してる
 じゃないのよ」

 「え?」

 シンジは気付いてなかったが、目には涙が浮かんでいた。

 「こ、これは、目にゴミが入っただけですよ」

 「ふふふ。じゃ、そういう事にしてあげるわ」

 「あ、あの、アスカ。僕、何もプレゼント用意してないんだけど、どうしよう」

 「そんな事だろうと思ったわ。じゃあ、チェロでクリスマスソングを、私のため
 だけに弾いてくれる? それでいいわよ」

 「え? そんな事でいいの?」

 「今年の所は、それで許してあげるわ。でも、来年はちゃんと用意しておくのよ」

 「うん、分かってる」

 「碇君、チェロ弾けるの?」

 「うん、少しだけどね」

 「へ~、それは意外ね。でも、何でアスカがその事知ってるの?」

 「前にシンジが弾いてたのを聞いた事があるのよ」

 「碇君、私も聞きたい!」

 「私も聞いてみたいわね。ね、いいでしょ? シンちゃん」

 「そりゃ、構いませんけど」

 「シンジ、ミサトやファーストに聞かせるのは構わないけど、それとは別に、私の
 ためだけにも弾くのを忘れるんじゃないわよ!」

 「うん、分かってるよ、アスカ。……あの、これ、開けてもいい?」

 「ええ、いいわよ」

 『ふふふ。手編みのマフラーで堕ちない男はいないわ。これでシンジは私のものね。
 悔しがるファーストの顔が……想像しにくいけど目に浮かぶわ』

 「え、と。これ、マフラー?」

 「そ、手編みのマフラー。クリスマスプレゼントの定番でしょ? 感謝しなさいよ。
 私の手編みのマフラー持ってる男なんて、世界中でシンジだけなんだから」

 「う、うん……。ありがとう……」

 「何よ? もう少し嬉しがったらどうなの? 張り合いないわね」

 「そ、そんな事ないよ。とっても嬉しいよ」

 「ならいいんだけど」

 「あのね、アスカ。確かに手編みのマフラーはクリスマスプレゼントの定番だし、
 心がこもってていいと思うわ。でもね、それは日本じゃ十五年前までの話よ。ドイツ
 じゃ今でもそうかも知れないけど、日本はセカンドインパクトの後、ずっと夏なん
 だから」

 「あっ!」

 『しまった~~~~~~~~~! ついいつものクセで、クリスマスは
 寒いものと思い込んでた。夏にマフラー贈るなんて、はっきり言ってイヤミ以外の
 何物でもないじゃない!』

 アスカは頭を抱えていた。

 「ち、ちがうのよシンジ! ちょっと勘違いしてただけよ! 決して、イヤミとか、
 嫌がらせとか、そういうんじゃないの。つい、日本のクリスマスが夏だって事を
 忘れていただけなんだから」

 「うん、分かってるよ。あまり使う機会は無いかも知れないけど、大事にするから」

 「そ、そう。分かってくれればいいんだけど」

 そんな二人を、レイはじぃ~~~っと見つめていた。

 その後、レイはシンジのチェロの演奏を聞き、しっかり夕食も食べてから、ミサト
 に送ってもらい、自分のマンションに戻っていた。そして、アスカから手編みの
 セーターを貰い、涙を流して喜んでいるシンジを思い出していた。

 そして、一大決心をし、その日から徹夜で、シンジのために手編みのセーターを
 編み始めた。なお、この間、編むために学校を休むという考えはなかった。なぜ
 なら、学校を休むとシンジが心配する、そして、シンジに会えないからである。

 (なんか、自分で書いててシンジにハラがたってきた)

 そして数日後、寝不足で真っ赤になった目で(いつも赤いけど)、皆の前で
 (ここがポイント)、シンジに手編みのセーターをプレゼントした。その時、シンジ
 は感激の余り、またも涙を流したのは言うまでもない。

 二人の女性の思いを無にする事はできないと思い、シンジはそれからしばらく、
 マフラーとセーターを身に付けていたが、全身にあせもができ、あまりの暑さで
 倒れてしまった。しかし、この事で、シンジを同情する男子は、一人もいなかった。

 「同情? 何であんな幸せモンの同情なんかせなアカンのや! ワシらに散々見せ
 つけとった当然の報いや! ええ気味や!」

 「本当。あんなラブラブでイヤ~ンなやつ、同情するやつなんて一人もいないよ。
 このまま、シンジの机が無くなるかも知れないね」

 「でも、碇君って優しいわね。アスカと綾波さんの気持ちを無駄にしないために、
 この暑いのにマフラーとセーターを倒れるまで身に付けてるなんて……。鈴原も私
 がプレゼントしたら着けてくれるかな……。あ、今のカットよカット!」

 以上、クラスメート三人のコメントでした。なお、本人の希望により、名前は公表
 できません。

 そして、倒れたシンジの看病を巡って、レイとアスカが女の戦いを繰り広げた事は
 言うまでもなかった……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 伍

 クリスマス決戦! レイvsアスカ <完>


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 「いや~終わった終わった。一言で言うと、『疲れた!』」

 「ちょっと、何が『終わった』よ! 私がシンジの看病する描写が全く無いじゃない
 の! 第一、この話は私とシンジのラブラブな話にするはずじゃなかったの!?」

 「いや~、最初はそのつもりだったんだけど、シンジがレイの部屋にプリント届ける
 話を思い付いて、結局、こういう形になったんだよ」

 「まさか、このままファーストとくっつけるんじゃないでしょうね!?」

 「ふっ……」

 「な、何よ! その『ふっ……』っていうのは!」

 「それでは皆さん、お次は次回の講釈で

 「こら、逃げるな! 大体、何が『次回の講釈』よ。西遊記じゃあるまいし」

 「良く知ってるね、この時代の人が」

 「こないだ再放送を見たのよ! 大体、外伝で書いたって事は、この先を続ける気
 がないって事でしょ! だったら、今書け、すぐ書け、さぁ書け、ここで書け、
 たちどころに書け!」

 「いや、そうしたいのは山々なのだが、私に残された行数はあまりに少ない。もう
 後、この行を含めて五行しかないのだよ、ネモ君」

 「だ、誰がネモ君よ!? あんたはガーゴイルか! って、もう三行しか残ってない
 ですって!? あ、もう次が最後の一行じゃない! いい、私の話を作るのよ!
 ファーストの笑顔にクラクラしてんじゃないわよ! 分かった!?」

 「いや~しかしエヴァ単行本三巻164ページの笑顔はいいなぁ……。まさに、僕は
 この笑顔に会うために生まれて来たのかも知れないってやつだなぁ」

 「……だめだ。完全に精神汚染してる……。あ、ちょっと! もう残り行数は無い
 んじゃなかったの!?」

 「ふっ……。私はこの物語の作者だ。行数くらい、どうにでもなる」

 「さっきと言ってる事が全然違うじゃないの」

 「問題ない。全てシナリオ通りだ」

 「会話になってないわよ。……全く、ファーストばっかりひいきするんだから」

 「アスカ、私はひいきなんかされてない」

 「されてるわよ! 残り行数が無いなんて言ってるくせに、後書きにあんたを出す
 くらいなんだから!」

 「それなら、アスカの方がひいきされてるんじゃないの? 私よりセリフが多い
 もの」

 「私は、こんな後書きで目立ちたくはないの! 本編で目立ちたいのよ!」

 「よーし分かった! そこまで言うなら、アスカが主役の話を作ろう」

 「本当にぃ? 嘘ついたら、エヴァで踏むわよ」

 「ああ、本当だとも。ジッ……じゃなくて、作者の名にかけて!」

 「で、どんな話?」

 「う~ん。『再生使徒軍団』が攻めてくるなんてどうかな?」

 「安直ね……。それで?」

 「いくら再生怪人は弱いといっても、さすがは使徒、かなり強い。シンジ達も健闘
 したが、半数の使徒を倒した頃、シンジもレイも傷つき、倒れてしまう。

 そこで、残ったアスカが、獅子奮迅の働きで、残った使徒をバッタバッタと倒して
 いく!」

 「うんうん。なかなかいいじゃないの」

 「あまりに大規模な戦いなので、ネルフの力でも隠し通せず、ついにこの戦いは、
 世界中の人々が見る事になった。そして、アスカが、最後に残った使徒にとどめを
 刺そうとした時、倒したはずの使徒が、その使徒の元へ飛んで来て、次々と合体を
 始めた」

 「そして、光ったかと思うと、そこには、初号機に良く似た、光輝く巨人が立って
 いた (南極に現れたアレだ)」

 「その使徒は圧倒的に強く、徐々にアスカを追い詰めて行った」

 「このままでは、やられるのは時間の問題だと思われた時、アスカの前に、一筋の
 光と共に、何かが落ちてきて、突き刺さっていた。それは、あまりに強力な使徒の
 力に引き寄せられた、ロンギヌスの槍だった」

 「それから、どうなったのよ?」

 「その槍を手にしたアスカは、使徒とにらみ合っていた。そして、アスカと使徒は、
 その生と死の交錯する接点に向かって、一陣の風に乗り、急速に近づいていった!」

 「……そしてアスカは、全世界の人々の胸に、愛と夢と希望と感動を残し、使徒
 と共に光の中に消えて行った……」

 「ありがとうアスカ。僕達は、光輝く君の雄姿を決して忘れない」

 ありがとう、アスカ。そして、さようなら……

 勝手に殺すなぁぁぁっっっ!!!

 ぐはぁぁぁぁぁぁっっっ!!

 「はぁ、はぁ、はぁ……。全く……人を殺して話を盛り上げようなんて、昔の
 アドベンチャーゲームのやりすぎよ。……ちょっと、聞いてるの?」

 「アスカ、だめよ。作者の人気絶してるわ」

 「情けないわね! シンジなら、これくらい五~六発は耐えるわよ」

 「それは、アスカがいつもいじめるから、打たれ強くなってるだけじゃないの?」

 「う、うるさいわね~」

 「大丈夫よ、アスカ。以前、作者の人が言ってた。『絶対、誰も殺さない。誰一人
 不幸にはしない』って。だから、今の話も作る気は無いわよ、きっと」

 「どうだか。単に、メインキャラを殺す度胸が無いだけじゃないの?」

 「じゃあアスカ、今の話、完成してもいいの?」

 「う~ん、そうね。ラストがハッピーエンドになるんだったら、出演してやっても
 いいわね」

 「例えば?」

 「そりゃ~シンジと私がラブラブに……って、何言わせるのよ!」

 「でもどうするの? 作者の人、こんなにしちゃって」

 「いいのよ。そんな奴の代わりなんて、いくらでもいるんだから」

 「でも、このままじゃ、後書きが終わらない」

 「じゃあ、後はあんたに任せるから、頼んだわよ」

 「え? あ、あの……。じゃ、さよなら」


 復活!

 上でも書いたけど、-if-シリーズでは、基本的に明るい話を作る予定なので、暗い
 話があまり好きじゃないって人は、安心して下さい。

 今回の話は、シンジがレイの部屋にプリントを届けないまま、アスカと仲良くなる
 といった展開や、レイがセーターを編んでいるのを知ったゲンドウが、自分のため
 だと思い込む展開とか、色々考えたのですが、結局、今回の形に落ち着きました。

 良かったら、感想をお願いします。では、次回作をお楽しみに。


 <後書き おわり>


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